Pico VR開発をUnityで始める:3Dオブジェクトの配置と基本操作
Web開発の経験をお持ちのエンジニアの皆様、Pico VR開発の世界へようこそ。この「Pico VR開発スタートガイド」では、皆様が持つプログラミングスキルを活かしつつ、VRゲーム開発特有の概念や技術を習得し、Picoデバイス向けのアプリケーション開発をスムーズに開始できるようお手伝いします。
前回の記事でUnity開発環境のセットアップが完了した方もいらっしゃるでしょう。今回は、Unityを使ったPico VR開発における、最も基本的な要素である「3Dオブジェクトの配置」と「基本操作」に焦点を当てて解説します。Web開発でいうところの「HTML要素を配置し、CSSやJavaScriptでスタイルや動きを制御する」作業に相当するものと考えていただくと、イメージしやすいかもしれません。
Unityプロジェクトの準備とPico向け設定の確認
Unityプロジェクトを開き、Pico向け開発に必要な設定が適切に行われているか確認しましょう。まだプロジェクトを作成していない場合は、新規で作成してください。
- ビルド設定の確認:
- メニューバーから
File > Build Settings
を選択します。 - Platformリストから「Android」が選択され、Picoデバイスを接続している場合はRun Deviceが正しく認識されていることを確認します。もしAndroidプラットフォームがインストールされていない場合は、Unity Hubから追加モジュールとしてインストールする必要があります。
- PlatformをAndroidに切り替える際には「Switch Platform」をクリックします。これには少し時間がかかる場合があります。
- メニューバーから
- Pico SDKのインポート:
- Pico開発にはPico Unity Integration SDKが必要です。SDKをプロジェクトにインポート済みであることを確認してください。通常、Unity Asset StoreまたはPico開発者サイトからダウンロードし、Unityプロジェクトにインポートします。
- インポート後、プロジェクト内に
PXR_SDK
のようなフォルダが作成されます。
- VR設定:
Edit > Project Settings
を開き、「XR Plug-in Management」を選択します。- Androidタブで「Pico XR」にチェックが入っていることを確認します。これにより、UnityがPicoデバイスをVRデバイスとして認識し、ヘッドトラッキングなどの機能が有効になります。
これらの設定が完了していれば、Picoデバイス向けのVRアプリケーションをビルドする準備が整っています。
VR空間に3Dオブジェクトを配置する
Unityでは、VR空間(これを「シーン」と呼びます)に様々な要素を配置して世界を構築します。Web開発におけるHTMLのように、要素(ここでは「GameObject」と呼びます)を階層構造で管理します。
- 新しいシーンの作成(任意):
- デフォルトのシーンを使うこともできますが、練習用に新しいシーンを作成してみましょう。
- メニューバーから
File > New Scene
を選択します。 - テンプレートとして「Basic」や「3D」を選択するのが一般的です。
- 作成したシーンは
File > Save As
で保存します。
- GameObjectの作成:
- シーン内に新しいGameObjectを作成します。最も基本的なGameObjectは3Dオブジェクト(Primitive)です。
- Hierarchyウィンドウ(通常左側にあります)内で右クリックし、
3D Object > Cube
を選択してください。 - シーンの中央に白い立方体(Cube)が表示されます。これが今作成したGameObjectです。
- GameObjectの確認:
- 作成したCubeを選択すると、Inspectorウィンドウ(通常右側にあります)にそのGameObjectの詳細情報が表示されます。
- Inspectorには、そのGameObjectが持つ「Component」という部品が表示されます。例えば、Cubeには以下のようなComponentが最初からついています。
Transform
: GameObjectの位置(Position)、回転(Rotation)、スケール(Scale)を管理します。Web開発のCSSにおけるposition
,transform
,scale
に相当すると考えると理解しやすいでしょう。Mesh Filter
: そのGameObjectがどのような形(メッシュ)をしているかという情報を持ちます。Mesh Renderer
: そのメッシュをどのように描画するか(色、質感など)を管理します。Box Collider
: 物理演算や当たり判定(コリジョン)に使われる形状情報です。Web開発のborderやpaddingで要素の領域が決まるのに似ていますが、こちらはより物理的な相互作用に関わります。
- これらのComponentの組み合わせによって、GameObjectの振る舞いや見た目が決定されます。Unityでの開発は、これらのComponentをGameObjectに付け外ししたり、設定を変更したり、C#スクリプトで制御したりすることが中心となります。Web開発でHTML要素にクラスをつけたり、JavaScriptでプロパティを変更したりするのと似た感覚で捉えられるでしょう。
- 配置の調整:
- HierarchyウィンドウでCubeを選択した状態で、Sceneビュー(中央の大きなウィンドウ)のツールバーにある移動ツール(十字矢印のアイコン)、回転ツール(円形の矢印アイコン)、スケールツール(四角と矢印のアイコン)を使って、Cubeの位置や向き、大きさを変更してみましょう。
- InspectorウィンドウのTransformコンポーネントの数値を直接編集することも可能です。
オブジェクトを操作する(C#スクリプト)
ゲームやアプリケーションは、ただオブジェクトを配置するだけでなく、それを動かしたり、ユーザーの操作に反応させたりすることでインタラクティブになります。これはC#スクリプトを作成し、GameObjectにComponentとしてアタッチすることで実現します。Web開発におけるJavaScriptでのDOM操作やイベントハンドリングに相当する部分です。
簡単な例として、Cubeを時間経過で回転させるスクリプトを作成してみましょう。
- C#スクリプトの作成:
- Projectウィンドウ(通常下側にあります)で右クリックし、
Create > C# Script
を選択します。 - スクリプト名を入力します。ここでは
RotateObject
としましょう。(名前は作成後に変更することも可能ですが、ファイル名とクラス名を一致させるのが慣習です)。 - 作成したスクリプトファイルをダブルクリックすると、Visual Studioなどのエディタが開きます。
- Projectウィンドウ(通常下側にあります)で右クリックし、
-
スクリプトの記述:
- 開いたエディタで、以下のコードを記述または貼り付けてください。
```csharp using System.Collections; using System.Collections.Generic; using UnityEngine;
public class RotateObject : MonoBehaviour // MonoBehaviourを継承 { // Update is called once per frame void Update() // 毎フレーム呼び出される関数 { // 現在のフレームからの経過時間に応じてオブジェクトを回転させる // Vector3.upはY軸方向を表す // Time.deltaTimeは前フレームからの経過秒数 transform.Rotate(Vector3.up * 50f * Time.deltaTime); } } ```
- このスクリプトは
MonoBehaviour
クラスを継承しています。UnityでGameObjectにアタッチできるComponentとして機能させるためには、このクラスを継承する必要があります。Web開発で特定のDOM要素に対してJavaScriptクラスのインスタンスを作成するのと似た考え方です。 Update()
関数は、ゲームが実行されている間、毎フレーム呼び出されます。ゲーム開発における「ゲームループ」の一部と考えてください。Web開発におけるrequestAnimationFrame
やタイマー処理に似ています。transform
は、スクリプトがアタッチされているGameObjectのTransformコンポーネントを指します。transform.Rotate()
は、GameObjectを回転させるメソッドです。Vector3.up
はY軸方向を、Time.deltaTime
は前フレームからの経過時間を表します。50f
は回転速度を調整するための係数です。Time.deltaTime
を乗算することで、フレームレートに関わらず一定の速度で回転させることができます。
-
スクリプトをGameObjectにアタッチ:
- Unityエディタに戻ります。
- Hierarchyウィンドウで先ほど作成したCubeを選択します。
- Projectウィンドウで作成した
RotateObject.cs
スクリプトファイルを、Inspectorウィンドウの空白部分にドラッグ&ドロップします。 - Inspectorウィンドウに
Rotate Object (Script)
という新しいComponentが追加されたことを確認してください。
- 実行して確認:
- Unityエディタの上部にある再生ボタン ▶ をクリックしてシーンを実行します。
- SceneビューでCubeが回転していることを確認できます。
これで、Unityで3Dオブジェクトを配置し、簡単なスクリプトで操作するという、ゲーム/VR開発の最も基本的な流れを体験しました。
Picoデバイスでの確認
開発したアプリケーションを実際のPicoデバイスで確認することは、VR開発において非常に重要です。エディタ上での見た目と、VR空間での体験は異なることが多いからです。
- ビルド設定の確認:
File > Build Settings
を開き、対象シーンがScenes In Buildリストに含まれていることを確認します。含まれていない場合は、現在のシーンを開いた状態で「Add Open Scenes」をクリックします。- PlatformがAndroidになっていることを再度確認し、Run DeviceでPicoデバイスが正しく選択されているか確認します。
- プレイヤー設定:
Build Settings
ウィンドウの左下にある「Player Settings」ボタンをクリックします。- 開いたProject Settingsウィンドウで、Androidタブが選択されていることを確認します。
Company Name
とProduct Name
を適切に設定します。(これがAndroidアプリのパッケージ名の一部になります)。- 重要な設定として、「Other Settings」を展開し、
Minimum API Level
とTarget API Level
がPicoデバイスの要件を満たしているか確認します(Pico SDKのドキュメントを参照してください)。 - また、「XR Settings」(またはXR Plug-in Managementの下)で、Stereo Rendering Methodなどが適切に設定されているか確認します。
- ビルドと実行:
Build Settings
ウィンドウに戻り、「Build And Run」ボタンをクリックします。- プロジェクトを保存するフォルダを指定します。
- Unityがプロジェクトをビルドし、USB接続されたPicoデバイスに自動的にインストールして実行します。
- Picoデバイスを装着し、作成したシーンが表示され、Cubeが回転しているか確認してください。
もしビルドや実行で問題が発生した場合、Android SDK/NDKの設定、Pico SDKのバージョン、Unityのバージョン、デバイスのDeveloper Modeが有効になっているか、USBデバッグが許可されているかなどを確認すると良いでしょう。Web開発での環境構築やデバッグに似たプロセスですが、VRデバイス特有の設定が必要になります。
まとめ
今回は、Unityを使ったPico VR開発において、3Dオブジェクトをシーンに配置し、C#スクリプトを用いて基本的な操作(回転)を行う手順、そして実際のPicoデバイスで動作を確認するまでの流れを解説しました。
Web開発の経験をお持ちの皆様は、GameObjectをHTML要素、ComponentをCSSやJavaScriptで制御する属性や機能、スクリプトをJavaScriptファイルに対応させて考えることで、比較的スムーズにUnityの基本概念を理解できるかと思います。Transformコンポーネントによる位置・回転・スケールの制御は、CSSのTransformプロパティと似た感覚で扱えるでしょう。
しかし、VR開発にはヘッドトラッキング、立体視、VR酔い対策、VR空間におけるインタラクションデザインなど、Web開発にはない独自の概念や考慮事項が数多く存在します。今後は、これらのVR特有の技術や、より複雑なゲーム開発の概念についても深掘りしていく予定です。
次のステップとして、他のPrimitiveな3Dオブジェクト(Sphere, Cylinderなど)を配置したり、スクリプトを修正して移動や色変更を試したりすることをお勧めします。Unityエディタとスクリプトを行き来しながら、様々なGameObjectやComponentの挙動を観察してみてください。Pico VR開発の旅はまだ始まったばかりですが、この基礎が皆さんの創造の基盤となるはずです。