WebエンジニアがPico VR開発を始めるために:Unity開発環境のセットアップ手順
Pico VR開発の世界へようこそ。Web開発のご経験をお持ちのエンジニアの皆様が、新たなフィールドとしてVRゲーム・アプリケーション開発に挑戦される際、まず最初に取り組むのが開発環境の構築です。
本記事では、Pico VR開発において広く利用されているゲームエンジン「Unity」を使った開発環境のセットアップ手順を、Web開発の経験を活かせるポイントも交えながら丁寧に解説いたします。この記事を通じて、Pico VR開発の第一歩をスムーズに踏み出していただけることを目指します。
なぜUnityでPico開発を始めるのか
Picoを含む多くのスタンドアロン型VRデバイスは、Android OSをベースとして動作しています。そのため、Androidプラットフォーム向けのアプリケーション開発が可能であるUnityは、Pico開発においても主要なツールとなっています。
Web開発におけるフレームワーク選択のように、ゲーム開発でも様々な選択肢がありますが、UnityはVR開発に必要な機能やアセットが豊富に揃っており、コミュニティも活発なため、初心者の方が学びやすい環境が整っています。
必要なもの
Pico VR開発環境を構築するために、以下のものをご準備ください。
- インターネット接続環境のあるPC (Windows, macOS)
- Pico VRデバイス本体 (Pico Neo 3 Link, Pico 4 など)
- PicoデバイスとPCを接続するためのUSB-Cケーブル
- 開発用ソフトウェア (Unity Hub, Unity Editor, Android Build Support, Pico SDK)
Web開発でIDEやローカルサーバー、データベースなどをセットアップするのと同様に、VR開発にも専用のツールと環境設定が必要になります。
Unity開発環境のセットアップ手順
Unityを使ったPico開発環境のセットアップは、主に以下のステップで進めます。
ステップ1: Unity Hubのインストール
Unity Hubは、複数のUnityエディタのバージョン管理やプロジェクト管理を行うための必須ツールです。
- Unity公式サイト(https://unity.com/)にアクセスし、Unity Hubをダウンロードします。
- ダウンロードしたインストーラを実行し、画面の指示に従ってUnity Hubをインストールします。
- インストール完了後、Unity Hubを起動します。Unityアカウントが必要になりますので、アカウントをお持ちでない場合は無料で作成・サインインしてください。
Web開発におけるNode.jsやPythonのバージョン管理ツール(nvm, pyenvなど)のハブツールと似た役割を果たすとイメージいただくと分かりやすいかもしれません。
ステップ2: Unity Editorのインストール(Android Build Support必須)
Pico開発には、特定のUnityエディタのバージョンと、Androidプラットフォーム向けのビルドをサポートするモジュールが必要です。
- Unity Hubを開き、「インストール」タブを選択します。
- 「エディタをインストール」ボタンをクリックします。
- インストールするUnityエディタのバージョンを選択します。Pico SDKが推奨するバージョンを確認することをお勧めしますが、特に指定がなければ、LTS(Long Term Support)バージョンを選択するのが一般的です。
- 重要な点として、「モジュールを追加」の画面で必ず「Android Build Support」にチェックを入れます。
- 「Android SDK & NDK Tools」と「OpenJDK」にも自動でチェックが入ることを確認してください。これらはPicoがAndroidベースであるため、ビルドに必要となるツール群です。Web開発で特定のライブラリやツール(例: Sassコンパイラ、TypeScriptコンパイラ)をグローバルまたはプロジェクトにインストールするのと同様です。
- 「インストール」をクリックし、Unityエディタと必要なモジュールをダウンロード・インストールします。これには時間がかかる場合があります。
ステップ3: Pico SDKの導入
Picoデバイス固有の機能(トラッキングデータの取得、コントローラー入力、ディスプレイ表示など)を利用するためには、Picoが提供するSDK(Software Development Kit)をUnityプロジェクトに導入する必要があります。
Pico SDKは、主に以下の方法で入手できます。
- Unity Asset Storeから取得: Unity Asset Storeで「Pico SDK」と検索し、Unityプロジェクトにインポートします。
- Pico Developer Webサイトから取得: Pico Developerの公式サイトからUnityパッケージ(.unitypackageファイル)をダウンロードし、Unityプロジェクトにインポートします。
SDKの具体的なインポート手順は以下の通りです。
- Unity Hubから新しいプロジェクトを作成するか、既存のプロジェクトを開きます。(プロジェクト作成方法は次ステップで解説します)
- Unityエディタが起動したら、アセットストアまたはダウンロードしたunitypackageファイルからPico SDKをインポートします。メニューバーから「Assets」>「Import Package」>「Custom Package...」を選択し、ダウンロードした.unitypackageファイルを選択するのが一般的です。
- インポート時に表示されるダイアログで、必要なファイルにチェックが入っていることを確認し、「Import」をクリックします。
これにより、Picoデバイス向けの機能を利用するためのスクリプトやプレハブなどがプロジェクトに追加されます。Web開発で特定のライブラリ(React, Vue.jsなど)をプロジェクトに追加するnpm installやyarn addのようなイメージです。
ステップ4: Unityプロジェクトの作成とPico設定
Pico VRアプリケーションを開発するためのUnityプロジェクトを作成し、Pico向けの設定を行います。
- Unity Hubを開き、「プロジェクト」タブで「新しいプロジェクト」をクリックします。
- テンプレートから「3D Core」を選択します。プロジェクト名を入力し、保存場所を指定して「プロジェクトを作成」をクリックします。
- Unityエディタが起動したら、Picoデバイス向けのビルド設定を行います。
- メニューバーから「File」>「Build Settings...」を選択します。
- プラットフォームリストから「Android」を選択し、「Switch Platform」をクリックします。これにより、ビルドターゲットがAndroidになります。
- 「Run Device」の項目にPicoデバイスが表示されているか確認します(デバイスがPCに接続されている必要があります)。
- 「Player Settings...」ボタンをクリックし、Pico SDKに関する設定を行います。
XR Plug-in Management
タブを選択し、Android
タブ(スマートフォンのアイコン)に切り替えます。PicoXR
にチェックを入れます。これにより、UnityのXR(Extended Reality)システムがPicoデバイスを認識し、トラッキングなどの機能が有効になります。- Player Settings内の他の項目(Package Name, Company Name, Product Nameなど)も、Androidアプリケーションとして適切な情報を設定してください。Package NameはWeb開発のドメイン名のように、アプリケーションを一意に識別するための重要なIDです。
ステップ5: Picoデバイスの準備
開発したアプリケーションをPicoデバイス上で実行するために、デバイス側でいくつか設定が必要です。
- Picoデバイスの電源を入れます。
- 設定メニューを開き、「概要」などの項目からビルド番号(またはバージョン番号)を繰り返しタップし、「開発者モード」を有効にします。(具体的な手順はPicoのモデルによって異なる場合がありますので、公式ドキュメントをご確認ください。)Web開発でブラウザの開発者ツールを有効にするのと似ています。
- 設定メニューに新しく表示された「開発者向けオプション」を開きます。
- 「USBデバッグ」を有効にします。
- PicoデバイスをUSBケーブルでPCに接続します。デバイス上に「USBデバッグを許可しますか?」のようなメッセージが表示されたら、「常に許可」を選択し、「許可」をタップします。
ステップ6: 実機ビルドと実行のテスト
これで、開発したアプリケーションをPicoデバイスにビルドして実行する準備が整いました。
- Unityエディタに戻り、「Build Settings...」ウィンドウを開きます。
- 設定がAndroidプラットフォームになっていることを再度確認します。
- シーンリストに、ビルドに含めたいシーン(通常は作成中のゲームレベルなど)が追加されていることを確認します。追加されていない場合は、「Add Open Scenes」をクリックします。
- 「Run Device」で接続したPicoデバイスが選択されていることを確認します。
- 「Build And Run」ボタンをクリックします。
- ビルドファイルの保存場所を指定します。
- Unityがプロジェクトをビルドし、生成されたapkファイルがPicoデバイスに自動的にインストールされて実行されます。
ビルドプロセスは、Web開発におけるwebpackなどのバンドラを使ったビルドや、CI/CDツールによるデプロイに似ています。コンパイル、アセットのパッケージング、ターゲットプラットフォーム向けの最適化などが行われます。
セットアップ時の注意点とトラブルシューティング
- Unityバージョンの互換性: Pico SDKは特定のUnityバージョンとの互換性があります。使用するPico SDKのバージョンが対応しているUnityバージョンを確認してください。
- Android Build Supportの漏れ: これがインストールされていないと、Androidプラットフォームへのビルドができません。Unity Hubのインストール済みエディタのモジュールを確認してください。
- Android SDK/NDK/JDKのパス設定: Unityインストール時にこれらを一緒にインストールした場合、通常は自動でパスが設定されます。しかし、問題が発生した場合は、UnityのPreferencesからExternal Toolsの設定を確認し、手動でパスを指定する必要があるかもしれません。
- USB接続とデバッグ許可: デバイスがPCに認識されない、またはビルド時にエラーが出る場合、デバイスのUSBデバッグが有効になっているか、PCとの接続が正しく行われ、デバッグの許可をデバイス側で承諾したかを確認してください。
- Pico SDKの設定: Player SettingsのXR Plug-in ManagementでPicoXRにチェックが入っているか、その他のPico関連設定(SDKのドキュメントを参照)が正しく行われているか確認してください。
まとめ
本記事では、Webエンジニアの皆様がPico VR開発を始めるためのUnity開発環境のセットアップ手順を解説しました。Unity HubのインストールからUnityエディタ、必要なモジュール、Pico SDKの導入、そしてデバイス側の設定まで、順を追ってご説明しました。
Web開発で培ったプログラミングスキルや論理的思考は、VR開発においても大いに役立ちます。新しい概念やツールに慣れるまでは試行錯誤があるかもしれませんが、一つずつ着実に進めていただければ、きっとPico VR開発の面白さを見つけられるはずです。
環境構築が完了したら、次はUnity上での基本的なVRオブジェクト操作やスクリプト作成に進んでみましょう。Pico VR開発の次のステップへ、ぜひ挑戦してください。